もそろった。何から何まで、丈夫に修繕ができあがり、生まれかわった元気なすがたになったのだ。
四月四日の朝となった。龍睡丸には、水先案内人が乗り組み、港の曳船にひかれて、いよいよ港外に向かった。
大日章旗《だいにっしょうき》が、船尾にひるがえっている。これもみな、兄弟である日本人と、友である外国人たちの、あたたかい心によるものだ。港に碇泊している外国船の人たちも、甲板に出て、曳船にひかれて出て行くわが龍睡丸へ、帽子をふり、手をあげて、見送ってくれるではないか。
黒煙をあげて走る曳船は、港の口から外海《そとうみ》に、龍睡丸を、ひきだした。港外には、いい風がふいている。
曳船と龍睡丸をつなぐ、曳索《ひきづな》をはなった。水先案内人は、それではと、私とかたい握手をして、
「では、ごきげんよう船長。愉快な航海をつづけて、たくさんのえものをつんで、日本に安着してください」
といって、龍睡丸が舷側《げんそく》にひいてきた、水先ボートに、乗りうつろうとして、大きな声でさけんだ。
「郵便をだす人はないか。故郷へ、手紙を出す人はないか。これが最終便だよう――」
しんせつな水先案内人のことばだ。
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