なかった。もともと、龍睡丸の持主の報効義金《ほうこうぎかい》は、貧乏な団体であるため、冬の間、南の海で、ふかや海がめ、海鳥をうんととらえて、できればまっこう鯨もとって、利益をえようというのが、この航海の目的であったのだ。
ついに私は、ホノルルの在留日本人に、一文なしでこまっているのだと、うちあけて相談すると、
「御同情します。われらも日本人だ、なんとかしましょう」
と、ありがたいことばである。そして、日本字新聞は、「龍睡丸|義捐金《ぎえんきん》募集」をしてくれたが、このとき、ホノルルの外国人のあいだには、へんなうわさがひろがった。
「あの船を見ろ。日本の小さな帆船のくせに、あんな大きな日の丸の旗をあげたりして、なまいきなやつらだ。避難の入港だなぞといっているが、ホノルルへ入港するまえに、沿岸定期の小蒸気船を、追いこしたというではないか。大しけにあったなんて、税金のがれのうそつきだよ」
ホノルルには、各国人がいて、こんなうわさをした。
そしてやがて、港の役所から、
「至急、船長自身出頭せらるべし」
という書面が、港に碇泊《ていはく》している龍睡丸に、とどいた。
私が上陸して、
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