安政二年)だった。うれしかったね。なんでも、早く一人まえになって、一番|銛《もり》をうってやろうと、思ったね。
 はじめは、帆柱の上にある、ほんとうの見張所の下に、樽《たる》をしばりつけてもらって、その樽の中にはいって、見はり見習いをやった。上の方の大人の見はりに負けずに、すばやく、鯨のふきあげる息を見つけては、歌をうたう調子で、声を長く引いて、鯨が息をするように、
「ブロース――ホー」
 と、力いっぱい、どなったものだ。
 あの鯨のいぶき、ふつう潮吹というが、あれを「ブロー」というのだ。そして、うでをのばして、見えた方角を指さすのだ。すると、下では、甲板から帆柱を見あげて、
「鯨はなんだ」
 と聞くのだ。息のふきかたで、鯨の種類がはっきりわかるのだ。
「まっこう」
 とか、
「ながす」
 とか、すぐにいわないと、ひどくしかりとばされるし、まちがったりすると、どえらくおこられたものだ。そのおこって、どなるもんくが、
「このお砂糖め」
 というのだ。ところが、いわれる方では、それこそ、雷が頭の上に落ちたように、うんとこたえるのだ。
 それは、こうなんだ。海の男として、りっぱな一人まえにな
前へ 次へ
全212ページ中156ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
須川 邦彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング