ひろ》(三十一メートル)。海底は、珊瑚質《さんごしつ》であることがわかった。
「島」
 見張当番が、大声でさけんで、右手を、力いっぱいのばして、指さしている。
 うすい牛乳のような濛気を通して、うす墨でかいた、岩のようなものが、ちらっと見えたと思ったら、もう何も見えない。
 私は、濛気が晴れるまで、錨《いかり》を入れて、碇泊《ていはく》する決心をし、小錨《しょうびょう》に太い索《つな》をつけて投げ入れた。
 ところが、海底は珊瑚質の岩で、錨の爪《つめ》がすべって船はとまらない。錨をがりがり引きずって、船は潮に流される。そこで、小錨を引きあげて、この索にもう一つ、小錨より大きな中錨をつけて、二ついっしょに投げこむと、二つの錨は海底をよく掻《か》いて、船は止った。
「さあ。ふかつりだ」
 船が碇泊すると、すぐにふかつりをはじめた。
 すると突然、つよく西風が吹きだした。びゅうびゅうと、帆柱や索具《さくぐ》にふきつけて、海面には白波がたちさわぎ、船体は、大西風に強くふかれて、錨索《いかりづな》がぴいんと張りきると、
 ぷつり。
 ぶきみな音がして、太い錨索は切れてしまった。すぐに、左舷《さげ
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