心したよ。あっはっはっは……」
 小笠原老人は、めいった気分を、笑いとばしてしまった。
 こういっているうちにも、船はよく走って、陰気な岩山も、怒濤《どとう》のひびきも、いつか後方はるか、水平線のかなたに、だんだん小さくなっていった。しかし、三人の青年船員の胸には、三十いくつの墓の話が、なかなか消えなかった。
 ――まさか、自分たちもそんなことに――
 と、思うのではなかったが……

   海がめの島、海鳥の島

 いま、われらの龍睡丸《りゅうすいまる》は、波をけたてて、ハワイ諸島にそって、北西に進んで行く。
 ある日、夜が明けてみると、近くに、フレンチ・フリゲート礁《しょう》が見えるではないか。フレンチ・フリゲート礁とは三日月形をした大きな珊瑚礁《さんごしょう》で、この珊瑚礁のなかには、小さな砂の島が、いくつもならんでいた。私は、そのなかの一つの砂島をえらんで、龍睡丸を、その一カイリ沖に碇泊《ていはく》させた。
 さっそく、島をしらべる一隊を上陸させるため、漁船をおろし、漁業長が、水夫と漁夫五人をつれて、砂島に上陸した。
 漁船が、砂島につき、六人が上陸すると、黒い大きなものが、いくつも動いている。
 なんであろうかと近づいてみると、それは、甲羅の大きさが一メートルもある、海がめの正覚坊《しょうがくぼう》が、のそのそしているのであった。なかには、鼈甲《べっこう》がめ(タイマイ)もまじっていた。
「よし、みんなつかまえてしまえ」
 一同は、海がめをかたっぱしから、あおむけにひっくりかえした。
 これでかめは、重い甲羅を下にして、みじかい足や首を、ちゅうに動かすばかりで、どうすることもできないのだ。この大がめは、頭の方の力がたいへん強くて、頭の方からひっくりかえそうとすれば、大人が三、四人かかって、やっとだ。しかし、うしろの尾の方からなら、一人でころりとひっくりかえされるのだ。かめの重さは、百三十キログラムから、二百二十キログラムぐらいもあった。
 このかめを、もっこに入れて、
「えっさ。こらしょ」
 と、二人ずつでかついで、波うちぎわにつないである漁船に、つみこんだ。
 みんなは、大漁にすっかり喜んでしまって、どんどんかめを運んだので、浜の漁船は、あおむけのかめがもりあがって、かめでいっぱいとなり、船べりから、波がはいりそうだ。
 漁業長は、大声でどなった。
「もうたくさんだ。そんなにつむと、かめで船がしずむよ。なんべんにも、本船へ運べ」
 本船では、私を先頭に、るす番が総出で、漁船が運んでくるかめを受け取っては、甲板に、あおむけにつみかさねて、大漁に大まんぞくであった。
 この、海がめの珊瑚礁をあとに、本船はさらに北西に進んだ。
 三角形の島で、頂上がまっ白い島の近くを通った。この島は、ガードナー島といって、草も木も生えていないが、頂上がまっ白いのは、鳥のふんであった。
 海鳥の多いこと、まったく鳥の島だ。遠くから見ると、むれ飛ぶ鳥で、空が白がすり、そうして、島は霜ふりに見える。
 この島を通りこしてから、二日めのことである。ちょうど正午ごろ、水平線を見はっていた見張当番が、はるかな水平線に、髪の毛が二、三本生えているように見えるものを見つけた。これが、レサン島だ。
 ひくい珊瑚島で、白い砂の上には、緑のつる草や雑草が、いちめんにしげっていて美しい。二本の椰子《やし》の木と、一本のイヌシデの木が立っているのが、この島の特徴で、航海者のいい目じるしになる。この島には、十何年もまえから、アメリカ人が、たくさんの労働者をつれて渡ってきて、大がかりで鳥のふんを採取しては、ハワイ島へ送って、サトウキビの肥料にしていた。
 島のまわりの海には、魚がひじょうにたくさんいる。つまり、えさになる魚が多いから、鳥がむらがるのである。

 龍睡丸が、ホノルルを出帆してから、いつしか一ヵ月以上の日がすぎて、無人島のリシャンスキー島に近くなったときは、五月の中ごろになっていた。
 船を、リシャンスキー島の近くへよせて、錨《いかり》を入れ、ここで、船の位置を知るのに使う、精確な時計、経線儀が、正しいかどうかをしらべた。それは、午前、正午、午後に、太陽の高さを、六分儀ではかって、地球の緯度と経度とを計算して、しらべてみるのだが、われらの経線儀は、正確であった。
 リシャンスキー島は、ひくい砂の島で、草も、小さな木も生えていて、海鳥、海がめ、魚がたくさんいた。島のぬしのような、何頭かのアザラシが、海岸にいたが、上陸したわれわれのすがたをみると、みんな海へにげてしまった。
 この島の名まえは、ロシア語であって、西暦一八〇五年に、ロシアの帆船がこの島を発見した記念に、その船の船長の名まえを、島の名としたのだ。
 この島を調査してから、さらに北西方の、ハワイ諸島
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