作業は、海綿あつめだ」
海には、どす黒い、生きた大きな海綿がいる。それをたくさんとってきて、浜の砂をほってうずめておいた。こうしておくと、海綿の虫が死ぬのだ。
一方、炊事場のかまどの灰をかきあつめて桶《おけ》に入れ、井戸水をいれて、黄色のあくをこしらえた。海綿は、二日間砂にうずめておいてからほり出して、日光にさらし、それからあくでよく洗ったら、オレンジ色のりっぱな海綿ができた。
このたくさんの、きれいな海綿を、砂の上にならべて海水をかけ、半がわきになると、また海水をかけ、何度もくりかえすと、しまいにこい塩分をふくむようになる。
それを、石油缶にいれた海水の中で、よくもみ出して、しぼり出し、その水を煮つめたら、少しのたきぎで、かなりの塩ができた。まだなれないので、色はねずみ色で、ごみが多かったが、りっぱに役にたつ。
料理当番は、さっそくこの塩を使って、ぴんぴんした魚の塩焼をつくった。一同は、
「どうだい、このおいしいこと」
大よろこびである。
「魚の塩づけもできるぞ」
「まずこれで、塩もできた。もっと何か考え出してくれ」
と、私はいった。
塩製造当番が、また一つふえた、そして、だんだんやっているうちに、白い大きな結晶《けっしょう》した塩ができるようになった。
その後、たきぎの関係から、塩の製造所は、宝島にうつされた。
天幕《テント》を草ぶき小屋に
ある日、漁業長がいい出した。
「網を作ったので、帆布《ほぬの》を、かなりたくさん使ってしまった。これからも、網を作る材料は、帆布よりほかにない。それに帆布は、大病人や、けが人のできたとき、つり床にも必要だ。冬になれば、見張当番のがいとうになる。そのほか、いくらでも役にたつ貴重品だ。その帆布を、天幕にはっておくのはおしい。このまま天幕にはっておけば、一年もたてばあながあくだろう。二年もすれば、ぼろぼろになってしまう。さいわい、宝島の流木の中には、木材や、長い板、船室の出入口の扉などがある。また、本部島と宝島の両方の島には、草がたくさん生えている。天幕をやめて、草ぶきの小屋にしては、どうだろう――」
一同は、これはいい思いつきだ、と、大さんせいであった。十六人の多くは、漁村、農村の草ぶき屋根の家で生まれ、そだった人たちだ、なつかしい草ぶきだ。宝島で木材をよりあつめ、葉の長い草をかって、本部島と宝島の小屋は、草ぶきになった。
水夫長の工夫で、柱と屋根を、丈夫な木の骨組にして、屋根には厚く草をふいた。夜ねるときには、四方に帆布をさげて風よけにし、日中は、その帆布をまきあげておく。雨降りのときは、風よけの帆布を、そとの方へ四方に引っぱって、屋根から落ちる雨水を受けて、石油|缶《かん》にためるようにした。そして、たいせつな雨水が、なるたけたくさんたまるようにと、草ぶき屋根のまんなかへ、「水」という字を、草の根で、大きく紋のようにつけた。
ときどき雨が降るので、たまった雨水を、井戸水にまぜて飲んだ。
草は、われわれには、たいせつなものである。草の根は、できるだけ保護して、草がよくしげるようにした。
屋根を草でふいたことから思いついたのであるが、両方の島の葉のながい草を、ジャック・ナイフでかりとっては、日にほして、馬のたべるような乾草《ほしくさ》を作った。これは、冬の支度である。
乾草をあんで、ござ、むしろのようなものを作って、小屋の中にもしき、また、夜具、腰みの、小屋の風よけなどにしようというのであった。
いったい、帆船の水夫は、工作が上手だ。
船にいるときには、古い索《つな》をほぐして、長い毛のようにし、それを糸にとって、その糸をあんで、靴ぬぐい、ござなどを作る。それから、帆や太い索の、こすれるところへあてる、いろいろの形のすれどめを、上手にあむのだ。
島でもみんな、休み時間に話をしながら、乾草をずんずんあんで、乾草のしき物や、手さげかごなどがりっぱにできた。
たきぎをたばねる縄も、みんな草縄にした。
それから、冬になったら、綿の代りに鳥の羽を利用することも、私は考えていた。
龍宮城の《りゅうぐうじょう》花園
島から少し沖へ出ると、海はとても深い。いったい、海の深さと山の高さとをくらべると、海の深さの方がまさっている。もし世界一の高い山を、世界一深い海へしずめたとすれば、山はすっかりしずんでしまうだろう。
世界一の高い山を、ふもとから見あげたけしきは、大きく美しいが、はんたいに、この山を高い空から、軽気球《けいききゅう》に乗って見おろしたら、また、別の美しさ、雄大さを感じるだろう。
この、われわれの住む空気の世界の高い山を、空の上から見おろしたのとおなじように、私たちは魚の住む水の世界の山を、高いところから見おろすことがで
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