るペンキでも、かんぜんに、海藻や貝を、ふせぐことはできない。まして木にぬったり、しみこませたりして、かんぜんに虫や海藻などをふせぐペンキや薬は、まだ世界に発明されていない。どうだ、勉強して発明してみないか」
「はあ――やります」
会員の川口は、
「ほかに、木船の底をつつむものはありませんか」
「木の板でつつむこともある。つまり、二重張りの板底にするのだ。こうすると、外がわの板は虫が食うが、内がわの板までは食わない。しかし、ときどき、外がわの板をはりかえなければならない」
つぎには、漁業長が、船食虫の話をした。
「船食虫と一口にいうが、種類は多い。だいたい三つにわけて話をしよう。
まず、海のなかの木材や、木の船底を、やたらに食ってあなをあける。キクイムシ。これは、長さ三、四ミりぐらいで、ワラジムシのような形をしている。
つぎにもう一つ、おなじような形で、少し大きい、キクイモドキは、長さ六ミりぐらい。二つともそれぞれ種類が多く、寒い海、暑い海、世界中の海にいて、木や板にむらがって、あなをあけて住みこみ、かたい木を、まるで海綿のようにしてしまう。海中の白蟻《しろあり》のような、害虫だ。
三番めのは、フナクイムシ。これは、ミミズのような長い虫で、はじめは小さい虫で、木や板の表面にとりつき、あなをあけて住みこむ。だんだん大きく長くなるにつれて、あなを深く大きくして、しまいには、三十センチぐらいにもなり、もっと長くなるのもある。
いまでは、木船の船底に、銅のうすい板をはって、これらの虫をふせぐことができるからいいが、銅板をはらない木船の底へ、出口のないトンネルのような深いあなを、れんこんの切り口のように、船底いちめんにあけられては、どんな船でもたまらない。まったく、木船にとっては、おそろしい虫だ。
また、船底につく海藻は、アオサ、ノリの類《たぐい》が多い。貝では、カキ、カメノテ、エボシ貝、フジツボなどで、フジツボが、ふつういちばんたくさんにつく。フジツボは、富士山のような形をした貝で、直径五センチ、高さ五センチぐらいの大きなものもある。これが、船底いちめんにつくのだ。このフジツボは、主人である虫が死んでも、殻だけは船底についている。この空家になった殻のなかに、魚やカニなどの小さな子どもがはいりこんで、船に運ばれて、遠くへ旅行することがある。それで、大西洋の魚が、太平洋へきたりするのだ。
大昔、西洋人は、
『フジツボは、船の進行をとめるまものだ』
といった。それは、船長もいわれたように、この貝がたくさん船底につくと、船の速力が出なくなるからだ」
天幕の中で、流木の丸太に腰かけて、ねっしんに話をきくはだかの生徒。空箱の椅子《いす》に腰をおろして教えるはだかの先生。机も、黒板も、紙も鉛筆も、なんにもない無人島教室に、こうした学科が進んでいった。
塩をつくる
食物に味をつけたり、魚をたくわえたりするのに、塩がほしかった。料理当番も、たべる方も、
「魚の塩焼ができたらなあ――」
と思うのであった。
これは、できないことではない。
「塩をこしらえよう」
「では、どうしてつくるか」
みんなのちえをあつめてみた。
まず、天日製塩法《てんぴせいえんほう》がある。これは、太陽のてりつける砂浜に、海水をまき、水分を蒸発させて、塩をとるのであるが、島の砂は、白|珊瑚《さんご》のくだけたものであるから、まっ白である。これに反射《はんしゃ》する日光は、目をぐらつかせるほどであるが、日中、はだしで砂の上を歩いても、足のうらが熱くない。白い色は、熱をすいとらないからだ。この砂の上に海水をまいて、天日でかわかしても、とても塩はとれまい。そこで、
「こんど見つけた宝島の、たきぎを使って、海水を煮つめて塩をとろう」
ということになっな。
いろいろくふうして、傾斜した長い大きなかまどを、珊瑚のかたまりできずいた。
細長いかまどはおくの方を高くして、その先に煙突をつけた。その長いかまどの上に海水を入れた石油|缶《かん》を、一列にならべ、かまどの口もとで火をたくと、おくの方までじゅうぶんに火がまわった。
宝島から運んできたたきぎを、山とつんで、まる一日たきつづけた。ところが、たいせつなたきぎをうんとたく割合に、できる塩がすくない。
「これではしかたがない。――どうしよう」
ひたいをあつめてそうだんした。漁業長が、いいことを考えだした。
「海綿の大きなのを集めて、海水をかけ、天日にかわかしては、また海水をかける。これを、いくどもくりかえして、しまいに海綿が、塩分のたいへんにこい汁をふくむようになったとき、その海綿からしぼり出した汁を煮つめたら、いいと思う」
というのだ。
「これは、すばらしい考えだ」
「新発明だ」
「では、きょうの
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