。朝、昼、なにもたべずに、働きどおしの空腹には、「うまい」といっているひまもなく、平げてしまった。おわんに三分の一ぐらいずつ蒸溜水を飲んだあとは、急に眠くなってきた。
「あかりもないし、みんなつかれているから、今夜はゆっくりねて、あすの朝、いろいろ相談しょう。おやすみ」
「おやすみ」
「おやすみ」
 一同を、天幕のなかにねかした。はだかでくらすのを、島の規則としたのだ。ねるのに、ねまきを着たり、毛布にくるまるようなことはしない。砂の上に、ごろり横になったら、もう、いびきをかいているのだ。去年の暮に日本を出てから、はじめて、動かぬ大地にねるのだ。しかも、太平洋のまんなかの、けし粒のような、無人島の砂にねようと、だれが思ったであろう。
 天幕のそとの、暗やみのなかで、私は、榊原運転士、鈴木漁業長、井上水夫長の三人と、小声で、井戸の相談をした。
「この島では、よい清水《せいすい》は出まい。しかし、どうにかして、飲めるくらいの水がほしい。榊原君の意見はどうか」
 私がいうと、運転士は、しばらく考えていたが、
「井戸が深いと、よい水の出ないことは、三つの井戸で、わかりました。つまり、海面とすれすれになるから、塩水が出るのでしょう。浅い方が、いいのではありませんか」
 すると、漁業長が思いだしたように、
「私は、ずっと前に、水にこまって島にあがったとき、木の根のちかくをほったら、水が出たことがありました。草の根にちかいところに、わりあいいい水があるのではないでしょうか。井戸ほり組の水夫長、君はどう思う」
 水夫長も、なるほどという顔で、
「今日の三つの井戸は、だめで、めんぼくありません。あしたは、浅い井戸をいくつかほってみたら、いい水が出ると思います。水は、はじめ白いが、ほっておくと、きれいにすみます」
 そこで、私はいった。
「そうだ。井戸の深さと草のしげりかたは、たしかに、水と関係がある。草の根は、真水をすいあげているのだから、草の根にちかい、浅い井戸がいいのだろう。また、雨が降って、雨水が流れてあつまるようなところも、いいにちがいない。それから、ここは珊瑚礁だから、石灰分《せっかいぶん》が多くて、はじめは白い水だが、しまいにはすむのだ。水夫長は、あした、また井戸をほってくれ。こう話がきまったら安心した。さあねよう」
「おやすみ」
「おやすみ」
 はだかの十六人は、絶海《ぜ
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