冬を迎へようとして
水野仙子
−−−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)今日《けふ》は
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)電車|通《どほ》り
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)二人《ふたり》[#ルビの「ふたり」は底本では「わたし」]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)たび/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−−−
――(櫻田本郷町のHさんへ)――
今日《けふ》はほんとうにお珍《めづら》しいおいでゝ、お歸《かへ》りになつてから「お前《まへ》は今日よつぽどどうかしてゐたね。」といはれましたほど、私《わたし》の調子《てうし》が狂《くる》ひました。ほんとうにあなたはめつたにお出《で》ましにならないので、私どものやうに引越《ひつこ》してばかりゐますと、ついあなたが御存《ごぞん》じない家《いへ》も出來《でき》てまゐります、今日はほんとうに嬉《うれ》しうございました。
けれど、これといつて何《なに》一《ひと》つ取りとめたお話《はなし》もいたしませんでしたのねえ、狹《せま》い私の家中《うちぢう》を驅《か》け廻《まは》つてゐるまあちやんとせつちやんの遊《あそ》びは、二人《ふたり》[#ルビの「ふたり」は底本では「わたし」]のやりかけた話をたび/\さらつて行《ゆ》きました、私はたゞ、あなたが(このあなたが[#「あなたが」に傍点]は、とても字《じ》では表《あら》はせないけれど、語氣《ごき》を強《つよ》めて言《い》つているのですよ)兎角《とかく》まあちやんの聲《こゑ》に母親《はゝおや》らしい注意《ちうい》をひかれがちなのを、不思議《ふしぎ》さうに珍らしさうに眺《なが》めてゐました。ほんとにまあちやんの大《おほ》きくおなんなさいましたこと、今更《いまさら》らしく思《おも》つてみれば、あなたもK子《こ》さんも立派《りつぱ》な母親なんですわね。K[#底本では「K」が欠落]子さんとこのせつちやんたら、この頃《ごろ》では私の家《いへ》へひとりで遊びになど來《く》るやうになりました。門《もん》の戸《と》が開《あ》いたと思ふと小《ちひ》さな足音《あしおと》がして、いきなりお縁側《えんがは》のところで「さいなら!」などゝ言つてゐます。
あなた方《がた》はほんと
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