りますけれど、それは次のやうな言葉をもつてあらはされる至つて靜な氣持なのです。
道は別れた。それは遂にさうなる道であつたのに、迷路に近い運命の道を尋ねて、お互に紛れ合ひ、躓き、引つ返し、または道づれとなり、離れ、寄り、さうして我々は進んで行く、けれども、おのおのの道にはおのおのの行手がある、さうしてあるところまで共に手を執つて進んだ者も、遂には自分にと定められた道に別れて行かなければならない、道は別れる。
さらば行きずりの人達! 左樣なら!
一時は一生の道づれかと思つたAさん! あなたも左樣なら! あなたの道のより廣く、より明るく、祝福にみちてありますやうに!
それでは私のあなた!今はしづかにとぼとぼと私達の歩を續けませう。その道はどんなに寂しく辛くとも、それが私達にと神の備へられたものであるならば、私は喜んであなたと共にそれを進んで行きませう、私は今自分の歩いてゐる道が、ほんたうの道であるのを思つて、心やすらかに滿足しつゝ微笑んでゐます……と。
底本:「叢書『青踏』の女たち 第10巻『水野仙子集』」不二出版
1986(昭和61)年4月25日復刻版第1刷発行
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