ればいいやうに思つてゐたのは消極的な考だつたと思ふ、おれはどこまでも、お前が滿足するまでお前を愛して行く! 時にはもどかしいやうな事があるかも知れないけれど、その時にはせめておれの努力を思つて我慢しておくれ……』

        二〇

『おれは隨分考へた、もしお前の成長にどうしてもA君が必要であるならば……と。けれども、おれにはどうしてもさう思ふことはできなかつた。それだからおれは別れる事を斷行した。尤もお前がどこまでもおれについて來るといふ――お前には辛い道かも知れないが――意志を示してくれなかつたならば、おれはたゞ自分だけを不幸な男にしてしまつたかも知れない。けれどもねえ、おれは直接お前に尋ねはしなかつたけれど、いろいろと考へ合せて、とにかくさう判斷したのだ……尤も、それは例のお人好な、僕のうぬぼれかも知れないけれど……』
 あなたは猶一分の不安をもつて私を御覽になりました。私は慌てゝ強くかぶりを振りました、そのために涙がつめたく頬に亂れました。
『もしその判斷が誤らなかつたとすれば、それはくるしみやなやみが[#「くるしみやなやみが」は底本では「くるしなやみやみ」]、その叡智を
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