心配らしく言葉の調子をかへた。私は實際いつもの時刻が來たのと、その胸を波だたせたのとによつて、兩手で熱い頬を押へながら床の中に喘いだ。
彼は私の顏の上にその手を置いた。私はそれをはづす事ができなかつた[#「できなかつた」は底本では「きでなかつた」]。
「あゝ隨分熱くなつてゐる、冷してあげようか?」
私は默つてかぶりを振つた。そのまゝしばらく沈默が續いた。私は目を閉ぢてゐながら、かれがぢつと腕組をして私を見つめてゐるのを知つた。
「あゝ神樣! もう澤山です、どうかこれより以上の何事もなくすみますやうに!」
けれども突然彼の手が私の手の上に重ねられた。そしてその手にだんだん力が込められて行つた。私はすくめられたやうになりながら、内心に烈しく神を呼び續けた。
「光ちやん! 堪忍してね! 堪忍して……」
……彼はくるりと私に脊を向けて兩手でその顏を蔽うた。……』
『三月五日。今、自分の周圍に見出すものは、白いベツドと、白い掛蒲團と白い看護服と――すべてが白い。夫に伴はれてこの病院に入つたのはたしかあの翌日だつたけれど、それから大分月日が經つたやうな經たないやうな氣がしてゐる。すべての生
前へ
次へ
全51ページ中41ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
水野 仙子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング