といふ診斷を貰つて、別にしよげたやうな顏もせず、私はその門を出たのでした。飽くまでも空想ずきな私は、もしその時別に何でもないと醫者に言はれたならば、恐らく却つてある淡い失望を感じたことだつたのでせう。

        十四

 ちようど三角の一線が萎縮したやうな私の病氣は、絶えずある程度な距離をもつて交渉してゐたあなたやAを、急に自分に引き寄せてしまつたやうな觀を呈しました。
 自分が病んでどれほど健康の尊いかを知つてゐたあなたは、その健康の恢復を望む以外にすべての要求を私から去り、ともすれば自分自身の上にのみ向けやうとしてゐた注意を私の方へ轉回させ、さうしてそこに可憐なる者を發見し、自覺したる愛情をもつて私をいたはり助けました。
 その喜と幸福とを私が漸く贏ち得たときには、私は更に肋膜の方も侵されて、發熱や、不眠や、呼吸困難やのために横つてゐたのでした。けれども、私は初めて全身を擧げてあなたの腕に抱かれるやうな心安さと、精神の緊張と共にだんだんあなたの健康の恢復されて行くのを見る事とによつて、私はしかも樂に、寧ろ喜をさへ感じて自分の病氣を眺めたのでした。
 その時Aがまた急に私の心
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