つあ(叔父)はその時まだ子供のおれを見込んで、たとへ六十錢でもとにかく資本を下してくれたんだ。おんつあは言つた……「金つてものは、幾らあつても同じもんだ、無ければ儲けようつていふ氣が出るし、あれば使ひたくなる。お前の親父は、あつた爲に使ひ果して家も體も飮み潰してしまつたんだ、そしてたうとう働くつて事はどんな事だか知らないで死んでしまふんだ……さあ、こゝに六十錢ある、これを一兩にしたら、毎日毎日この六貫を一兩にする事が出來たら、お前の家のくらしは立つて行くぞ.小さくとも大きくとも商法の心はおんなしだ。いゝが、お前が病氣か何かで仕事を休んで資本をすつた時でない限は、二度とおんなじ資本を貰ひに來るやうでは駄目だぞ。お前が大きくなつて、また違つた相談をおれに持ちかける時は、それはまた別だ。」……叔父《おんつあ》はかう言つて、おれを勵してくれたんだ……それからおれは降つても照つてもかゝさず出かけて行つた。おんつあは六貫を一兩にしろつて言つたが、おれは六貫を倍にして一兩二貫にして見せる、いや二兩にして見せる、子供心にもおれはさう覺悟したんだ……ところでだ、本家。』
彼はまた殘の盃を傾けてやつと手
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