ぎよつとして母を呼びに立つた。
『勝、お勝、苦しいか?』と、そつと額に手をやつて見た母親は、『道理で夕方あんまり紅い顏をしてると思つた!』とつぶやいた。
宗三郎もびつくりしたやうに入つて來て、すぐに清治を醫者の家にやつた。熱度をはかつて見ると、四十一度にちよつぴり頭が出てゐる。來るべき暴風が來たといふやうな氣を集めて、人々は枕許につくねんとした。晝間だけ病家まはりを雇俥でするらしく、醫者は馬乘提燈をさげて和服で來た。霙の中を蛇の目の後について、清治は手さげをさげて續いた。形のとほりに脈をとつて再び熱度をとつたが、その時はもう一度ばかりひいて、かへつて熱さうにふうふうと頤にかぶさる蒲團を氣にしてゐた。醫者が歸つたあと、清治はまた頓服をもらひにやられた。
聞き傳へて折々さまざまな見舞の客が來た。こゝの老父のもの堅いのを少からず信用してゐる蒟蒻粉問屋の新造、夫婦揃つて塵も積つて山主義の身代を溜めた加納屋のをばさんは、殊に度々見舞つてくれて、その度にお芳にいろいろなことを教へていつた。産婆や何かにも、手のないところを一々お茶を出したり何かしなくとも、後で相當のお禮をすればいゝものだとか、一
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