光つたのを感じ、勝手にしろと言つたやうに足早に歩き出したのを知つた。
 いよ/\、休むことが出来ないのを知つた足は、非常な速力をもつて疲労《つかれ》を訴へて来た。何物をも見、何物をも考へずに二人はたゞ歩いた。
 やがて、
「帰らう。」
「えゝ。」
 かう簡単な会話が交はされた。
 夫はつか/\と赤い灯の柱の下につき進んで行つた。
 間もなく、夫は前から、妻は後から、お互にお互を心のうちに非難しあひながら電車に乗つた。
 二人とも此上もない不快な心持ちを、神の罰に受けながら。



底本:「水野仙子 四篇」エディトリアルデザイン研究所
   2000(平成12)年11月30日発行
初出:「中央文学」二巻九号
   1914(大正3)年9月発行
※底本の凡例に「ルビは新仮名遣いとした」と書かれていましたので、ルビの拗促音は小書きしました。
入力:林 幸雄
校正:多羅尾伴内
2004年4月29日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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