いと私にそゝがれたけれど、どんなにその事を言ひ表したらいゝかにわくわくしてゐるやうな顏のうごきを見ると、私はすつかり安心してしまつた。
私の話をひき出すやうに言ひかけたのは、よしのさん自身の話の冒頭だつたのだ。ふいと顏をあげたはづみがきつかけになつたゞけのことなんだ。
で、私はまた安心して靜な聽手になつた。
『私は良人を崇拜してゐてよ、また愛してもゐるわ。(聲笑起る)まあ、笑ちつやいけないわ、おのろけのつもりぢやないんだから。仰しやるまでもありませんて? まあ、なんとでも仰しやい……でね、私は良人に對してこれつていふもの足りなさも持つてゐないけど、そりあ御馳走を喰べたがつたり、時々疳癪を起して――あれでて隨分疳癪もちよ、私を擲つたりするけれど、でも自分が惡いと思つた時にはあとですぐ謝るわ。でね、柄もあのとほり大きいし、さういつちやなんだけれど、風采だつてさう見すぼらしいことはないと思つてゐるのよ。
それだのにたつた一つ私に滿足されないあるものがあるやうなの。それはあの人の性質でもなければ、顏でもなく、姿でもなく……さうね、それでゝやつぱり風采に關してゐることのやうなんだけれども
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