らあ! 憎くもないのに、斬った昔は斬ったと言うてほめられたが、憎くて斬っても、これからは斬ったおれが天下のお尋《たず》ね者になるんだからのう。――勝手にしろだ。おれは寝る。おまえらも勝手にしろ」
「だめです! 先生! 手当もせずに寝たら傷が腐るんです! せめてなにか巻いておきましょう。そんな寝方をしたら駄目ですよ!」
「うるさい! 障《さわ》るな! ――腐ったら腐ったときだ……」
 はじき飛ばして、横になると、遠いところをでも見つめるように、まじまじと大きく目を見ひらいたまま、身じろぎもしなかった。

         五

 それっきり直人は、四日たっても、五日たっても起きなかった。
 眠っているかと思うと、いつのぞいてみても、パチパチと大きく目をあいていて、ろくろくめしも摂《と》らなかった。次第に小次郎たちふたりは、じりじりと焦り出したのである。
「どうするんですか。――隊長」
「…………」
「東京へ逃げるなら逃げる、西へ落ちるなら落ちるように早くお決め下さらんとわれわれふたり、度胸《どきょう》も据《す》わらんですよ」
「勝手に据えたらよかろう」
「よかろうと仰有《おっしゃ》ったって、隊長がなんとかお覚悟を決めぬうちは、われわれ両人、どうにもならんこっちゃごわせんか。生死もともども、とろろもともども分けてすすろうと誓って来たんですからね。寝てばっかりいらっしゃるのは足の傷がおわるくなったんじゃごわせんか」
「どうだか知らん。ここも動かん……」
「動かんと仰有ったって、三年も五年もここに寝ていられるわけのもんじゃごわせんからね。逃げ出せるものならそのように、駄目ならまたそのように、はきはきとした覚悟を決めたいんですよ。一体どうなさるおつもりなんです」
「お生憎《あいにく》さまだが、つもりは今のところ、どんなつもりもない。おまえら、つもりたいようにつもったらよかろう」
 なにもかも投げ出し切ったといったような言い方だった。――げっそりと落ち窪《くぼ》んだ目を、まじまじと見ひらいて、にこりともしないのである。

 ふたりは、腐った。
 苦い顔をし乍ら、目から目へなにか囁《ささや》き合っていたが、小次郎が決然として身を起すと、金丸をせき立てて言った。
「つかまったらつかまったときじゃ。探って来よう!」
「市中の容子か!」
「そうよ。こんなところにすくんでいたとて、日は照
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