、嫉妬、陰謀の手が加わって、おそろしい暗殺の計画が成り立った。
「奴を屠《ほふ》れっ」
「大村初め長州のろくでもない奴等が大体のさ張りすぎる。あんな藪医者《やぶいしゃ》あがりが兵部大輔とは沙汰《さた》の限りじゃ」
「きゃつを屠ったら、政府は覆《くつ》がえる。奴を倒せ! 奴の首を掻《か》け!」
 呪詛《じゅそ》と嫉妬の声が、次第に集って、大楽《だいらく》源太郎、富永|有隣《ゆうりん》、小河真文《おがわまさぶみ》、古松簡二《ふるまつかんじ》、高田源兵衛、初岡敬治、岡崎|恭輔《きょうすけ》なぞの政府|顛覆《てんぷく》を計る陰謀血盟団が先ず徐々に動き出した。
 五人は、その大楽源太郎の命《めい》をうけた、源太郎子飼いの壮士たちだった。
 隊長は、神代直人《くましろなおと》、副長格は小久保|薫《くん》、それに市原小次郎、富田|金丸《かなまる》、石井|利惣太《りそうた》なぞといういずれも人を斬ることよりほかに能のないといったような、いのち知らずばかりだった。
 狙ったとなったらまた、斬り損じるような五人ではない。兵器廠設置の敷地検分のために、わずかな衛兵を引きつれてこの京へ上《のぼ》っていた大村益次郎のあとを追い乍ら、はるばる五人はその首を狙いに来たのである。
「どうします。隊長。すぐに押し入りますか」
 斬らぬうちから、もう血の匂いでもがしているとみえて、鼻のひしゃげた市原小次郎が、ひしゃげたその鼻をくんくんと犬のように鳴らし乍ら、隣りの神代の袖をそっと引いてささやいた。
「奴、晩酌《ばんしゃく》をたのしむくせがありますから、酒の気《け》の廻ったころを見計って襲うのも手でござりまするが、――もう少し容子《ようす》を見まするか」
「左様……」
「左様という返事はありますまい。待つなら、待つ、斬りこむなら斬りこむように早く取り決めませぬと、嗅ぎつけられるかも知れませぬぞ」
「…………」
 しかし、神代直人は、どうしたことか返事がなかった。――屋守《やもり》のように塀板へ平《ひら》みついて、じっと首を垂れ乍ら、ころころと足元の小石にいたずらをしていたが、突然クスクスと笑い出したかと思うと、吐き出すように言った。
「変な商売だのう……」
 アハハ、と大きく笑った。
 同じ刺客は刺客でも、神代直人は不思議な刺客だった。これまで直人が手にかけたのは、実に八人の多数だった。しかし、そのひと
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