引きつったように笑って言った。
「馬鹿者共めがっ。アハハハハ……。みい! みい! あの色をみい! まるで鬼火じゃ。二本松のこの城を地獄へつれて行く鬼火のようじゃわ、ハハハハハハ……」
吸い込まれるように声が消えて、城内はやがてまたしいんと静まりかえった。
と思われたとき、――不意にキイキイと、書院のお廊下の鶯張《うぐいすば》りが怪しく鳴いた。
「門七!」
「大三《だいざ》!」
「石川!」
「多々羅!」
顔から顔へ名を呼ぶように目交《めま》ぜが飛ぶと、近侍達は一斉に傍《かたわ》らの脇差をにぎりしめた。――恭順か、会津援兵か、その去就を内偵すべく官軍の密偵達が、平《たいら》、棚倉《たなくら》、福島、仙台、米沢から遠く秋田南部のお城下までも入りこんでいるのは隠れない事実なのである。
四本の脇差の鯉口《こいくち》は、握り取られると同時にプツリプツリと素早く切って放たれた。
だが、不思議である。お抱え番匠万平が、これならばいか程忍びの術に長《た》けた者であっても、決して無事には渡り切れませぬと折紙つけたその鶯張りなのだ。だのに音はそれっきりきこえなかった。
と思われたとき、――キイキ
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