俺もじゃ。この門七も計りすぎたわ。その上、おぬしと知らずに斬ったは、俺も逸まったことをしたわ……」
 嘆き合っているとき、突如、夜陰の空に谺《こだま》して、ピョウピョウと法螺《ほら》の音《ね》がひびき伝わった。
 あとから、鼕々《とうとう》と軍鼓の音が揚った。――同時に城内くまなくひびけとばかりに、叫んだ声が流れ伝わった。
「出陣じゃ! 出陣じゃ!」
「俄《にわ》かに藩議がまとまりましたぞう!」
「会津へ援兵と事決まりましたぞう!」
「出陣じゃ! 出陣じゃ!」
 きくや、手負いの二人は期せずして目を見合せ乍ら言った。
「千之!」
「門七!」
「無念じゃな……」
「残念じゃな……」
「ここで果つる位ならば、本懐遂げて死にたかったわ」
「そうよ、華々しゅう斬り死にしたかったな」
「許せ。許せ」
「俺もじゃ。せめて見送ろう!」
「よし行こう!」
 左右から這《は》い寄ると、血に濡れ、朱《あけ》に染みた二人はひしと力を合せて抱き合いつつ、よろめきまろぶようにし乍ら、漸《ようや》く表の庭先まで出ていった。
 同時に二人の目の向うの、月光散りしく城内|遥《はる》かの広場の中を騎馬の一隊に先陣させた
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