吐き出すように言った。
「いっそもう野武士になりたい位じゃ。十万石がうるそうなったわ。なまじ城持ちじゃ、国持ちじゃと手枷首枷《てかせくびかせ》があればこそ思い通りに振舞うことも出来ぬのじゃ。それにつけても肥後守《ひごのかみ》は、――会津中将は、葵《あおい》御一門切っての天晴《あっぱ》れな公達《きんだち》よ喃《のう》! 御三家ですらもが薩長の鼻息|窺《うかご》うて、江戸追討軍の御先棒となるきのう今日じゃ。さるを三十になるやならずの若いおん身で若松城が石一つになるまでも戦い抜こうと言う御心意気は、思うだに颯爽《さっそう》として胸がすくわ。のう! 林田! そち達はどう思うぞ」
「只々もう御勇ましさ、水際立《みずきわだ》って御見事というよりほかに言いようが厶《ござ》りませぬ。山の頂きからまろび落ちる大岩を身一つで支えようとするようなもので厶ります。手を添えて突き落すは三つ児でも出発る業《わざ》で厶りまするが、これを支え、喰い止めようとするは大丈夫の御覚悟持ったお方でのうてはなかなかに真似《まね》も出来ませぬ。壮烈と申しますか、悲壮と申しますか、いっそ御覚悟の程が涙ぐましい位で厶ります」
「そう
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