で厶ります」
「さもあろう。いや、だんだんと話に気が乗って参った。今度は誰じゃ。誰ぞ持合せがあるであろう。語ってみい!」
「…………」
「返事がないな。多々羅はどうじゃ」
「折角乍ら――」
「ないと申すか。永井! そちは如何《どう》じゃ?」
「手前も一向に――」
「不調法者達よ喃。では林田! そちにはあるであろう。どうじゃ。ないか」
「いえ、あの――」
「あるか!」
「はっ。厶りますことは厶りまするが……」
 ためらいもよいつつ林田が言いかけたのを、
「言うなっ。門七!」
 実に奇怪だった。それまで点々としてしょんぼりうなだれていた千之介が、突如|面《おもて》をあげると、何ごとか恐れるように声をふるわせ乍《なが》らけわしく遮切《さえぎ》った。
「話してはならぬ! やめろっ。やめろっ。あれを喋舌《しゃべ》ってはならぬ! 言うのはやめろっ」

         三

「なに! 異《い》なことを申したな。何じゃ! 何じゃ!」
 きいて当然のごとくに長国が不審を強め乍ら言い詰《な》じった。
「やめろとは何としたのじゃ! あの話とはどんな話ぞ? 千之介がまたなぜ止めるのじゃ」
「…………」
「のう林田。仔細ありげじゃ。聞かねばおかぬぞ。何が一体どうしたというのじゃ」
「いえ、実は、あの――」
「言うなと申すに! なぜ言うかっ」
 別人のように千之介がけわしく制したのを、
「控えい! 波野!」
 長国がきびしく叱って言った。
「気味の悪い奴よのう! その方は今宵いぶかしいことばかり致しおる。尋ねているのはそちでない。門七じゃ。林田! 主《しゅ》の命じゃ! 言うてみい!」
「はっ。主命との御諚《ごじょう》で厶《ござ》りますれば致し方厶りませぬ。千之介がけわしく叱ったのも無理からぬこと、実は波野と二人してこの怪談を先達《せんだつ》てある者から聞いたので厶ります。その折、語り手が申しますのに、これから先うっかりとこの怪談を人に語らば、話し手に禍《わざわ》いがかかるか、聞き手の身に禍いが起るか、いずれにしても必ずともに何ぞ怪しい祟《たた》りがあるゆえ気をつけいと、気味のわるい念を押しましたゆえ。千之がそれを怖《おそ》れてやめろと申したので厶ります」
「わははは。何を言うぞ。そち達両名は二本松十万石でも名うての血気者達じゃ。そのような根も葉もないこと怖《こわ》がって何とするか、語ったは誰
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