か、わけても太い奴を横ざしにぶっ差して、目の光りのうちにも、苛々《いらいら》とした反抗のいろが強かった。
「つまらん顔をしておるな。なんというみすぼらしい恰好《かっこう》をしているんじゃ」
 その目で射すくめるように見おろし乍ら、新兵衛は、軒昂《けんこう》とした声で言った。
 平七は、だまって自分の身体《からだ》を見廻した。――なるほどその言葉の通り、皮膚のいろも、爪のいろまでが光沢《つや》を失って、ほんの昔、真紅の胴に白いろずくめのしぶきを切り乍ら、武者振りも勇しくこの大川を乗り切ったときの、あの目のさめるようなみずみずしさは、どこにも見えなかった。
「ふ、ふ、ふ、ふ……」
 気のぬけたように笑うと、平七は、長々とした欠伸《あくび》をやり乍ら、たるんだ声で言った。
「おまえさん、近ごろ、なにをしておいでじゃ」
「こっちで言いたい言葉じゃ、貴公、山県狂介のところで、下男《げなん》のような居候《いそうろう》のような真似《まね》をしておるとかいう話じゃが、まだいるのか」
「おるさ」
「見さげ果た奴じゃ。仮りにも旗本と言われたほどの幕臣が、讐《かたき》同然な奴の米を貰うて喰って、骨なしにもほ
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