道しかけましたを、はからずも主水之介、目にかけまして力となったが治右には目ざわり、あろうことかあるまいことか、上、御寵愛のお紋の方様をそそのかし、場所も言語同断の伝通院へこのわたくしを招き寄せ、ささのたわむれ、お膝のたわむれ、申すも恐れ多い御振舞い遊ばされたのでござります」
「なぜたわむれた! よしや治右《じえ》の企らみであろうとも紋は予が寵愛の女じゃ。知りつつその方がまたなぜたわむれた!」
「天下の為、上、御政道の御為にござります」
「たわけめッ! 将軍家が寵愛の女の膝にたわむるが何ゆえ天下の為じゃ!」
「父娘《おやこ》、腹を合せて不義を強《し》いるような不埓者、すておかば恩寵《おんちょう》に甘えて、どのような非望企らむやも計られませぬ、知りつつお膝をお借り申し奉ったは、みな、主水之介、上への御意見代り、いずれはお膝を汚し奉ったことも、御上聞に達するは必定《ひつじょう》、さすれば身の潔白もお申し開き仕り、御前に於て黒白のお裁き願い、君側の奸人《かんじん》どもお浄《きよ》め奉ろうとの計らい、君側の奸を浄むるはすなわち天下のため、上御政道のお為にござります」
「たわけめッ」
「は?」

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