に菩提《ぼだい》を弔《とむら》ってやろうとの侠気《きょうき》から、身内の乾児達《こぶんたち》に命じて毎夜こんな風に見廻らしている土左船《どざぶね》なのでした。土左衛門を始末するための船というところから、いつとはなしに誰いうとなく言い出したその土左衛門船なのです
「みろ! みろ! おい庄的《しょうてき》! 男も若くていい男だが、女はまたすてきだぜ」
「どれよ。どこだよ」
「な、ほら。死顔もすてきだが、第一この、肉付きがたまらねえじゃねえかよ。ぽちゃぽちゃぽってりと程よく肥っていやがって、身ぶるいが出る位だぜ」
「分らねえんだ。暗くて、おれにはどっちが頭だかしっぽだかも分らねえんだよ。もっと灯《あか》りをこっちへ貸しなよ。――畜生ッ。なるほどいい女だね。くやしい位だね。死にたくなった! おらも心中がして見てえな。こんないい女にしッかり抱かれて死んだら、さぞや、いいこころ持ちだろうね」
「言ってらあ。死ぬ当人同士になって見たら、そうでもあるめえよ。それにしても気にかかるのはこの年頃だ。何ぞ書置きかなんかがあるかも知れねえ。ちょっくら仏をこっちへねじ向けて見な」
 しっかり抱き合ったまま、なま
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