途端でした。爆発するような哄笑が退屈男の口にのぼりました。
「ウッフフフ。わッははは。いや、面白いぞ。面白いぞ。水死人に絞め殺した紐痕《ひもあと》が見ゆるとは、愈々怪談ものじゃ。どうやら話が本筋に這入ったわい。――亭主! 亭主!」
「はッ。六兵衛はここに控えてござります」
「いやそちでない。遊女屋の亭主じゃ。誰袖の抱え主《ぬし》が参り合わせておると申したが、いずれじゃ」
「へえへえ。三ツ屋の亭主ならば手前でござります。いつもながら御健勝に渡らせられまして、廓内《くるわない》の者一統悦ばしき儀にござります。近頃は一向イタチの道で、いや、一向五丁町へお越し遊ばされませぬが何か――」
「つべこべ申すな! ここは曲輪《くるわ》でない。そのように世辞使わなくともよいわ。――相尋ぬることがある。偽り言うては相成らんぞ」
「へえへえ、もうほかならぬ御前様でござりますゆえ、偽りはゆめおろか、毛筋程のお世辞も言わぬがこの亭主の自慢でござります。それにつけても御殿様のお姿が見えぬと、曲輪五丁目は闇でござりますゆえ、折々はあちらの方へもちとその、エヘヘヘ、その何でござります。つまりその――」
「控えぬか! それが世辞じゃ。――きけば誰袖も行方《ゆきがた》知れずに相成りおるとのことじゃが、まことであろうな」
「まこともまこと、あれはやつがれ方の金箱《かねばこ》でござりますゆえ、うちのもの共も八方手分けを致しまして、大騒ぎの最中でござります」
「居のうなったは、当家伜の源七と同じ日じゃと申すが、それもまことか」
「不思議なことに、カッキリと日が合いまするゆえ、面妖《めんよう》に思うておりまするのでござります。どうしたことやら、あれが、誰袖がどうも少し気欝《きうつ》のようでござりましたのでな、四五日、向島の寮の方へでもまいって、気保養致したらよかろうと、丁度四日前の夕刻でござりました。婆《やりて》をひとりつけまして送り届けましたところ、ほんの近くまでちょいと用達しにいったそのすきに、もう姿が見えなくなったのでござります」
「ほほうのう。源七との仲はどうぞ! 客であったか。それとも通うたことさえなかったか」
「いえその、実は何でござります。親の六兵衛どんを前にして言いにくいことでござりまするが、両方共にぞっこんという仲でござりましてな、あれこそ本当の真夫《まぶ》――曲輪雀共もこのように申し
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