動じゃあるめえと存じますゆえ、万ガ一の場合の御用意に、二人三人御朋輩の御旗本衆をでも御連れなすった方がいいと思うんでごぜえます。およろしくばどこへなと御使いに参りますがいかがでごぜえます」
不安げに峠なしの権次が言ったのを、
「いや、参ろうぞ。参ろうぞ、独りで参ろうぞ。竜造寺長門守骨ある名物男ならば、早乙女主水之介の骨も一枚アバラのつもりじゃ。助太刀頼んで乗り込んだとあらば眉間傷が悲しがろうわ。京弥!」
颯爽として立ち上がると、時を移さずに命じました。
「このまにも手遅れとなってはならぬ。早う急ぎの乗物用意せい」
――長割下水のあたり、しんしんと小夜《さよ》ふけて、江戸の名物木枯もどうやら少し鎮まったらしい気勢《けはい》でした。
三
目ざした鼠屋横丁に乗りつけたのはかっきり四ツ――。
角に乗り物を待たしておいて、武者窓下へ近づいて見ると、なるほど峠なしの権次の言った通り、ちらちらと表へ灯りが洩れて、道場内では話のその宵試合が終ったあとの祝い酒が丁度始まったらしい容子なのです。
「ウフフ。安い酒がそろそろ廻り出した模様じゃな。傷もむずむずとむず痒《かゆ》くなっ
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