しい色恋の出入りだったら、口憚《くちはば》ッたいことを申すようですが、峠なしの権次ひとりでも結構片がつくんです。ところが悪いことに対手が少々手に負えねえんでね。殿様が旅に御出かけなすった留守の事なんだから、勿論御存じではござんすまいが、ついふた月程前に、あッしのところの小出河岸とはそう遠くねえ鼠屋横丁《ねずみやよこちょう》へ、変な町道場を開いた野郎があるんですよ」
「なるほどなるほど、何の町道場じゃ」
「槍でござんす。何でも上方《かみがた》じゃ一二を争う遣い手だったとか評判の、釜淵番五郎《かまぶちばんごろう》という名前からして気に入らねえ野郎ですがね。それがひょっくり浪華《なにわ》からやって来て途方もなく大構えの道場を開いたんですよ。ところがよく考えて見るてえと開いた場所からしてがどうも少しおかしいんです。鼠屋横丁なんてごみごみしたところへ飛び入りに、そんな大きな町道場なんぞ構えたって、そうたやすく弟子のつく筈あねえんですからね。近くじゃあるし、変だなと思っているてえと、案の定おかしなことを始めたんですよ。開くまもなく職人を大勢入れましてね」
「何の職人じゃ」
「最初に井戸掘り人夫を十
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