四人ばかりと、あとから大工が八人、その棟梁《とうりょう》の源七どんの御内儀《おかみ》さんがつまりこちらのお絹さんでごぜえますが、入れたはよいとして、いかにも不思議というのは、もうかれこれひと月の上にもなるのに、井戸掘り職人は言うまでもないこと、八人の大工もいったきりでいまだにひとりも――」
「帰らぬと申すか」
「そうなんでごぜえます。いくつ井戸を掘らしたのか知らねえが、十四人からの人夫がかかれば三日に一つは大丈夫なんですからね。それだのに行ったきりと言うのもおかしいが、通い職人がまた泊り込みでひとりも帰らず、四十日近くもこちら井戸ばかり掘っているというのも腑《ふ》に落ちねえことなんですからね。少し気味がわるくなって、ひと晩でいいから宿下《やどさが》りをさせておくんなせえましとお願いに参ったんでござんす。ところが変なことに、釜淵の道場の方ではもうとっくに井戸なんぞ掘りあげたから、人夫は十四人残らずみんな帰したと言うんですよ。帰したものなら帰って来なくちゃならねえのに一向帰らねえのは、愈々只事じゃあるめえというんで、つい色々と凶《わる》い方にも気が廻ったんです。と言うのは、無論お殿様なんぞ御存じでごぜえましょうが、ひょっとするとあれじゃねえかと思いましてね。ほら、よくあるこッちゃござんせんか。お城普請《しろぶしん》やお屋敷なんぞを造《こし》らえる時に、秘密の抜け穴や秘密仕掛けの部屋をこっそり造らえて、愈々出来上がってしまうと外への秘密が洩れちゃならねえというんで、工作人夫を生き埋めにしたり、バッサリ首を刎《は》ねたりするってことを聞いておりますんでね。もしやそんなことにでもなっていちゃ大変と、内々探りを入れて見たんです。するてえと――」
「あったか! 何ぞそれらしい証拠があったか!」
「あったどころか、どうも容易ならんことを耳に入れたんですよ。どんな抜け穴を掘ったか知らねえが、仕事が出来上がってしまってから、人夫を並べておいてやっぱり首を刎ね出したんでね、そのうちのひとりが怖くなって逃げ出したと言うんです。しかし逃げられちゃ道場の方でも大変だから、内門弟を六人もあとから追っかけさせて、とうとう首にしたとこう言うんですよ。だから、こちらのお絹さんもすっかり慌てておしまいなすったんです。井戸掘り人夫がそんなことになったとすりゃ、勿論棟梁達も無事で帰ることはむずかしかろうと大
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