いや、事がそう決まらば急がねばならぬ。御老体、先ず事は半《なかば》成就《じょうじゅ》したも同然じゃ。御支度さッしゃい」
健気《けなげ》な菊路の旅姿を先にして、主水之介、京弥、老神主三人がこれを守りながら、目ざす大和田十郎次の屋敷へ行き向ったのが丁度暮れ六ツ。
元より門はぴたりと締って、そこはかとなくぬば玉の濃い闇がつづき、空も風も何とはのう不気味です。
だが菊路は、涙ぐましい位にも今|健気《けなげ》でした。つかつかと門の外へ歩みよると、ほとほと扉を叩いて中なる門番に呼びかけました。
「あの、物申します。わたくし、旅に行き暮れた女子《おなご》でござります。宿を取りはぐれまして難渋《なんじゅう》ひと方ではござりませぬ。今宵いち夜、お廂《ひさし》の下なとお貸し願えぬでござりましょうか、お願いでござります」
「なに、女子でござりますとな。待たッしゃい、待たッしゃい。宿を取りはぐれた女子とあっては耳よりじゃ。どれどれ、どんなお方でござります」
ギイとくぐりをあけて、しきりにためつすかしつ、差しのぞいていたが、菊路ほどの深窓《しんそう》珠をあざむく匂やかな風情が物を言わないという筈はない。
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