るうちに、何かと相談を持ち込むようになったのじゃ。それゆえ、一揆起すについても先ずわしに計ってと、あの通り大挙して参ったところを、御領主方でも知ったと見える。先程のあの鳥刺しめ、まさしく大和田十郎次どのから秘密の言い付けうけて参った者に相違ござらぬが、あやつめが四たび五たびとしつこく隙見《すきみ》して、何か嗅ぎ出そうと不埓な振舞いに及んだゆえ、脅《おど》しつけようと飛んで出たところへ、貴殿がふらふらと迷ってお出なすったという次第じゃ。それから先は御存じの通り、――それにつけても沼田正守、当年九十一蔵に至るまでまだ一度も女子《おなご》に惚《ほ》れたことはおじゃらぬが、男の尊公ばかりにはぞッこん参りましたわい。それ故にこそ由々敷大事の秘密まで打ちあけてのお願いじゃ。一揆を起すか刺し殺すか、どうあっても十郎次どのに今日のごとき非行お改めなさるよう、御意見申上げねばならぬ。いかがでおじゃろう、強《た》ってとは申さぬ。同じお直参のよしみもござろうゆえ、旗本八万騎にその位は当り前と、十郎次どのに御味方なさるならばなさるで、それもよし、少しなりとこのおやじに見どころがござらば、先程とくと拝見仕った尊公のあのお腕前と御胆力、少々御用立て願いたいのじゃ。否か応か御返答いかがでおじゃる」
「なるほど、事の仔細も御所望の筋もしかと分り申した。もしこの主水之介が否と申さば?」
「知れたこと、この場に先ず御貴殿を血祭りに挙げておいて、老体ながら沼田正守、一揆の一隊引具し、今宵にも御領主の屋敷に乱入いたし、力弱き農民百姓達を苦しめる助の平の大和田十郎次めにひと泡吹かすまででおじゃるわ」
「わはは。いや、面白い面白い。身共を先ず血祭りに挙げるとはさも勇ましそうに聞えて、ずんと面白うござりますわい。老いてもなお負けぬ気な、その御気性、主水之介近頃いちだんと気に入ってござる。ましてや世の亀鑑《きかん》たるべき旗本中にかかる不埓者《ふらちもの》めが横行致しおると承わっては、同じ八万騎の名にかけて容赦ならぬ。いかにも身共、御所望の品々御用立て仕ろうぞ」
「なに! 御力となって下さるか。忝《かたじけ》けない、忝けない。ほッと致して急に年が寄ったようじゃ。みなの衆もさぞかし躍り上がって悦びましょうゆえ、早速事の仔細を知らせてやりましょうわい」
「いや、待たれよ。待たれよ。お待ち召されよ」
 欣々《きんきん》
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