ョロヒョロ、ピイヒョロヒョロと、たそがれかけた夕空高く囀《さえず》ってこのあたり野州《やしゅう》の山路に毎年訪れる、一名霜鳥との称のある渡り鳥のツグミの群が、啼いて群れて通っていったからとて不思議はないのです。それから百舌《もず》に頬白《ほおじろ》、頬白がいる位だから、里の田の畔《あぜ》、稲叢《いなむら》のあたりに、こまッちゃくれた雀共が、仔細ありげにピョンピョンと飛び跳ねながら、群れたかっていたとてさらに不思議はない。随ってまた小鳥がいる以上は、それらの小鳥を狙う鳥刺しがひとりや二人|徘徊《はいかい》していたとても、何の不思議はない筈なのに、ふらりふらりとやりながら何気なくひょいと見ると、何と言う里の何と言う鎮守であるか、そこの街道脇につづいた鎮守の森の外をうろうろしている鳥刺しの容子が、いかにも少し奇怪でした。第一にいぶかしいのは、鳥刺しの癖に鳥を刺そうとしていないのです。型の如くトリモチ竿の長いのを手にしてはいるが、枝にも梢にも雀がいるのに一向刺そうともしないで、森のまわりを抜き足差し足でうろうろとしながら、何を探そうというのか、しきりと中の容子を覗き見している気勢《けはい》でした。その上に足ごしらえも穏かでない、普通に鳥刺しの服装と言えば、ヒョットコ手拭に網袋、それから代りのモチを仕込んだ竹筒を腰にさげて、手甲に脚絆、膝は十人中十人までが丸出しのままであるのに、不審なその鳥刺しは、丸輪の菅笠を眼深に冠って、肩には投げ荷を背負い、あまつさえ脚絆のほかに股引すらも穿《は》きながら、一見しただけで遠い旅路をでもして来たらしいいで立ちでした。しかも、肝腎の刺した雀を入れる網袋がないのです。――これは何びとが何と抗議を申込もうと、不審と言うのほかはない。他の七ツ道具の容子が変っているのは、まだ大目に見逃すことが出来ないものでもないが、小鳥を刺してそれをその日その日の生計《たつき》の料《しろ》にしている鳥刺しが、獲物を入れるべき袋を腰にしていないということは、大いに不埓千万《ふらちせんばん》なのです。
「はて喃《のう》。雲茫々、山茫々、鳥刺し怪しじゃ。ちとこれは退屈払いが出来ますかな」
 いぶかりながら見眺めているとき、実に不意でした。
「貴様、まだまごまごしておるかッ。神域を穢《けが》す不所存者めがッ。行けッ、行けッ。行けと申すに早く行かぬかッ」
 けたたましく怒号し
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