相談せい!」
 静かに威嚇しつつ、深編笠をバラリとはねのけて、ずいと農民達の面前に突きつけたのはあれです。あの眉間傷です。
「………?![#「?!」は横1文字、1−8−77]」
「………?![#「?!」は横1文字、1−8−77]」
「のう、どうじゃ。ずうんと骨身までが涼しくなるようなよい疵であろうがな。近寄ればチュウチュウ鼠啼き致して飛んで参るぞ」
「………?![#「?!」は横1文字、1−8−77]」
「………?![#「?!」は横1文字、1−8−77]」
 ぎょッとなって身を引きながら、いずれも農民達はやや暫し片唾《かたず》を呑んで遠くからその傷痕を見守っていたが、まさにこれこそは数の力でした。否、よくよく誰もが抑え切れぬ憤《いきどお》りを発していたと見えて、揉み合っている人垣のうしろから、爆発するように罵り叫んだ声が挙りました。
「やッつけろ。やッつけろ。構わねえからやッつけろ。どこのどやつだか知らねえが、邪魔ひろぐ奴アみなおいらの讐《かたき》だ。のめせ! のめせ! 構わねえから叩きのめせ!」
「違げえねえ。一ぺん死にゃ二度と死なねえや! いってえおいらお侍《さむれい》という奴が気に喰わねえんだ。百姓と見りゃ踏みつけにしやがって気に喰わねえんだ。やッつけろ。やッつけろッ。みんな死ぬ覚悟でやッつけろ」
 声と同時です、殺気を帯びたどよめきがさッと人波のうしろに挙ったかと見えるや一緒で、バラバラと投げつけたのは咄嗟の武器の石つぶてです。
「わはは。さてはこの眉間傷もその方共には猫に小判と見ゆるな。面白い。石と矢とは少しく趣きは異なるが、篠崎先生が秘伝の矢止めの秘術、久方ぶりに用いて見るも一興じゃ。投げてみい! 受け損じなばお代は要らぬ。見事に止めて見しょうぞ。投げい! 投げい! もそッと投げて見い!」
 泰然自若、雨と霰《あられ》にそそぎかかる石のつぶてを右に躱《かわ》し左に躱して、顔色一つ変えずに大きく笑ったままなのだから敵《かな》わないのです。しかもその身の躱し方のあざやかさ!
「わッははは。当らぬぞ。当らぬぞ。――左様々々。今のはやや法に敵《かな》った投げ方じゃ。いや、うまい。うまい。その意気じゃ。その意気じゃ。もッと投げい! もそッと必死になって投げてみい」
 笑いつつ、パッと躱してはさッと躱し、掴んで投げる小石はこれをバラバラと編笠の楯で受け止め、そうして悠
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