でござります! お願いでござります!」
「捕り方に囲まれおるとは、何としたことじゃ」
「かくしにかくしておりましたなれど、とうとう江戸隠密の素姓《すじょう》が露見したのでござります。宿改め素姓詮議のきびしい中をああしてお殿様にお泊り願うたのは、御眉間傷で早乙女の御前様と知ってからのこと、いいえ、かくしておいた隠密が露見しそうな模様でござりましたゆえ、万一の場合御力にすがろうとお宿を願うたよし申してでござります。ほかならぬ江戸で御評判の御殿様、同じ江戸者のよしみに御助け下さらばしあわせにござります。わたくし共々しあわせにござります」
「よし、相分った! そなたが夫とは、あの客引きの若者じゃな」
「はい。三とせ前からついした縁が契《ちぎり》の初めとなって、かようないとしい子供迄もなした仲でござります。お助け、お助け下さりまするか!」
「眉間傷が夕啼《ゆうな》き致しかかったばかりの時じゃ、参ろうぞ! 参ろうぞ! きいたか! ズウズウ国の端侍共《はざむらいども》ッ、直参旗本早乙女主水之介、ちと久方ぶりに退屈払いしてつかわすぞッ! 来るかッ。馬鹿者共よ喃。ほら! この通りじゃ! よくみい! うぬ
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