なッ。広言申すなッ。陪臣呼ばわりが片腹痛いわッ。われらは捕って押えるが役目じゃッ。申し開きはあとにせいッ。それッ各々! 御かかり召されッ」
 下知《げち》と共に笑止や仙台藩士、わが退屈旗本早乙女主水之介を飽くまでも隠密と疑い信じて、今ぞ重なる秘密と謎を割りながら、さッと競いかかりました。しかし笑止ながらもその陣立て陣形はさすがに見事、兵家のいわゆる黒白構《こくびゃくがま》え、半刀半手の搦《から》め捕りという奴です。即ち、その半数を抜いて払って半数は無手の居捕り、左右にパッと分れながら、じりじりと詰めよりました。
 だのに、今なお気味わるく不審なのはあの矢場主英膳です。敵か味方か、味方か敵か、おのが道場に今や血の雨が降らんとするのに、一向おどろいた気色《けしき》も見せず、何がうれしいのかにやりにやりと薄笑っているのでした。否! それよりも不気味な位に自若としていたのは退屈男です。
「ウフフフ。黒白構えか。なかなか味な戦法よ喃。何人じゃ。ひと、ふた、みい……、ほほう、こちらに抜き身が十人、挙捕《こぶしど》りは十一匹か。久方ぶりの退屈払いには先ず頃合いじゃ。――行くぞッ」
 ズバリと叫んで、
前へ 次へ
全44ページ中32ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング