お坊主衆もお借り受け申し、お茶なぞねじ切りながら、心行くまで太公望致しとうござりまするが、いかがでござりましよう」
「うんうん、若いに似合わず禅味があってうい奴じゃ、石斎、妙庵、気に入るよう支度致してとらせい」
 朱塗り御紋所打ったる曲※[#「※」は「祿−示」、第3水準1−84−27、155−下−9]を川岸に運ばせて、左右に二人の茶坊主を打ち随えながら、悠然として腰打ちかけると、あやつめがッ、要らざる節介に、と言わぬばかりでくちおしそうに睨み睨み通りすぎていった薩摩の行列に、晴れ晴れとして呼びかけました。
「七十三万石より少しばかり御無礼した味わいじゃ、坊主々々、ここらで一つねじ切ったらよかろうぞ!」

 付記 ぐずり松平について。
[#ここから2字下げ]
退屈男の第五話に見えるぐずり松平の事実は、隠れたる逸事として徳川三百年中東海道に鳴りひびいた秘話中の秘話です。十七代連綿として相つづき、その最後の第十七代|松平上野介忠敏《まつだいらこうずけのすけただとし》こそは、幕末剣客中の尤物《ゆうぶつ》で、神田講武所の師範代を長らく勤め、かの清川八郎なぞと共に、新徴組を組織して、その副隊長に擬
前へ 次へ
全48ページ中47ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング