も、こうやんわりと不気味に、しかも一向恐れ気もなく釣竿を肩にしたまま、大手|搦《から》め手両道から説き立てられては、いかに気負いの藩士でもぐッと二の句に詰ったのは当り前です。だが、返す言葉に詰ったからとて、今さらすごすごと引ッ込まれるわけのものではない。中の気短そうなひとりが、癇癪筋《かんしゃくすじ》に血脈《ちみゃく》を打たせながらせせら笑うと、退屈男のその言葉尻を捉えて、噛みつくように喰ってかかりました。
「ならば貴公、罪なき者は斬ってならぬ。罪あらば何者たりと斬っても差支えないと申すかッ」
「然り! 士道八則にも定むるところじゃ。斬るべしと知らば怯《ひる》まずしてこれを斬り、斬るべからずと知らば忍んでこれを斬らず、即ち武道第一の誉《ほまれ》なりとな。これもやはり御意に召さぬかな」
「かれこれ申すなッ、ならば目に物見せてやるわッ」
罵り叫びざまに、さッと大刀抜き払うや否や、もろ手斬りに斬り払ったのは、若者と思いきや、挑みかかった黒鹿毛のうしろ脚です。
「か、可哀そうに! なにをなさります! なにをむごいことなさります!」
打ちおどろいて、言う声もおろおろと若者が涙ぐんだのを、
「
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