がら、しきりに采配振っているのは、先刻、お大尽を繩にしてこれ見よがしに引き揚げていった四人のうちの二人です。しかも、その采配振りが実に不埒《ふらち》でした。金にならないような安家財はこれを所司代詰所に送り、めぼしい品は、数多くの千両箱と共に、どこへ送ろうというのか、その行く先を心得ているらしい小者達に命じて、どんどんと違った道を違った方向に運ばせているのです。無論、かくのごとき言語道断な処分の仕方というものは、あろう筈がない。公儀定むるところの掟《おきて》に従って、家財没収身代丸押えの処断をするなら、金目安物、ガラクタめぼしい品と、その財物をふた色に選り分けて、ふた所に運ぶという法はないのです。あきらかにその一事もまた、私財横領のよかならぬ悪計を察するに充分な行動でしたから、無数と言ってもいい程の千両箱を行列つくって担《にな》わせながら、しすましたりというように引き揚げようとしていた二人の前にずいと立ちふさがると、退屈男は黙ってバラリ編笠をはねのけました。
「よッ――」
「………」
「さッきの奴じゃな! 行く手をふさいで何用があるのじゃ! 何の用があってつけて来たのじゃ!」
ぎょッと
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