ねえんだから、つい欲に目が眩《くら》んで片棒かつぐ気になったのがこの態《ざま》なんです。だけどもお大尽は、幾らあっしがお気に入りでも、どんなにあっし達が機嫌気褄《きげんきづま》を取り結んでおだてあげても、あの観音像ばかりはと言って、ちっとも正体を見せねえので、とどひと芝居書こうと考えついたのが、こちらの八ツ橋太夫なんです。――おお苦しい! もう、もう声も出ねえんです。苦しくて、苦しくて、あとはしゃべれねえんです。これだけ話しゃ、太夫がもう大方あらましの筋道もお察しでしょうから、代って話しておくんなせえまし。くやしいんだッ、是が非でも奴等の化けの皮を引ッぱいでやらなきゃ、死ぬにも死にきれねえんだッ。いいや、旦那にその讐《かたき》を討って貰うんです! どうやら気ッ腑のうれしい旦那のようだから討って貰うんです。だから太夫、話してやっておくんなせえまし。あっしに代って、よく旦那に話してやっておくんなせえまし……」
「よう分りました。どうもお初の時から御容子が変だと思いましたが、それで何もかも察しがついてでござんす。話しましょう、話しましょう。代って話しましょうゆえに、江戸のぬしはんもようきいて
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