めし珠数屋の財宝財物を御糺問《ごきゅうもん》の上、すみやかにお下げ渡し然るべし。江戸旗本早乙女主水之介、天譴《てんけん》を加えて明鑒《めいかん》を待つ」
ぺたりとその血書の一札を磔柱に貼っておくと、
「いかい御雑作に預かった。これなる四本の片腕は弥太一への何よりな土産、遠慮のう貰うて行くぞ」
血のまま四本を袖ごとくるんで、小気味よくも爽かに歩み去ると、表に待ちうけながらざわめいていた裸人足のひとりを招いて、いとも退屈男らしく命じました。
「ちと気味のわるい土産じゃが、早々にこれを島原の八ツ橋太夫に送り届けい。弥太一へ無念の晴れる迄とくと見せてつかわせと申してな。それから、今一つ忘れずに伝えろよ。縁《えにし》があらばゆるゆるとか申しおったが、東男《あずまおとこ》はとかく情強《じょうごわ》じゃほどに、深入りせぬがよかろうぞとな。よいか。しかと申し伝えろよ」
言い捨てると、さてまた退屈じゃが何処へ参ろうかなと言わぬばかりに、ぶらりぶらりと的《あて》もなく更け静まった都大路を、しっとり降りた夜霧のかなたへ消え去りました。
底本:「旗本退屈男」春陽文庫、春陽堂書店
1982(昭和57)年7月20日新装第1刷発行
※混在する「不埒」と「不埓」は、底本通りとした。
※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と価値、加えて、作者の抱えた限界を読者自身が認識することの意義を考慮し、底本のままとしました。(青空文庫)
入力:tatsuki
校正:M.A Hasegawa
2000年6月29日公開
2000年7月11日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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