「なに! 手習いの師匠とな! では、浪人者じゃな」
「へえ。元あ、宇都宮藩のお歴々だったとか言いましたが、表向きゃ、手習いの看板出して、内証にはガラガラポンをやるようなご浪人衆でごぜえますもの、なんか曰くのある素性《すじょう》でごぜえましょうよ」
「住いはいずこじゃ」
「根津権現《ねずごんげん》の丁度真裏でごぜえますがね」
 きくや同時でした。
「馬鹿者共めがッ」
 言いざま、前に居合わした中間二人を、ぱんぱんと取って押えておくと、鋭く京弥に命じました。
「急いでそち、あとの二人を取って押えろッ。こ奴共も、六松とやらいうた怪しい下郎と同じ穴の貉《むじな》やも知れぬ。いぶかしい手習師匠の住いさえ分らば、もうあとは足手纒《あしでまとい》の奴等じゃ。押えたならば、どこぞそこらへくくりつけておけッ」
 自身の押えた二人をも、手早くそこの柱に窮命《きゅうめい》させておくと、六松の逐電先《ちくでんさき》をつき止めるべく、ただちに根津権現裏目ざして足を早めました。

       三

 行きついてみると、いかさま言葉の通り、算数手習い伝授、市毛甚之丞と看板の見える一軒が労せずして見つかりましたの
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