参旗本の格式以て罷《まか》りこした。早々に開門せい!」
だのに、答えがないのです。
とみるや、ひらり一|蹴《しゅう》!
「面倒じゃ。開けねばこうして参るぞ!」
ぱッと土を蹴って、片手|支《ささ》えに、五尺の築地塀上《ついじべいうえ》におどり上がりながら、ふと、足元の門奥に目をおとしたとき!
――見よ!
そこに擬《ぎ》せられているのは、意外にも、十数本の槍先でした。それに交って六本の刄襖《はぶすま》! しかも、その六本の白刄《はくじん》を、笑止千万にも必死に擬していたものは、ほんの小半時前、根津権現裏のあの浪宅から、いずれともなく逐電《ちくでん》した筈の市毛甚之丞以下おろかしき浪人共でしたから、門を堅く閉じ締めていた理由も、うしろに十数本の槍先を擬しているものの待ち伏せていた理由《わけ》も、彼等六人の急を知らせたためからであったかと知った退屈男は、急にカンラカンラ打ち笑い出すと、門の外に佇んだままでいる京弥に大きく呼びかけました。
「のう京弥々々! ちとこれは面白うなったぞ。早うそちもここへ駈け上がってみい!」
「心得ました。お手かし下されませ」
退屈男のさしのべた手にすがりついて、これも身軽にひらり塀の上におどり上がったとみえましたが、中の意外な光景に打たれたとみえて、ややおどろきながら叫びました。
「よおッ。あの六人が先廻りしておりまするな!」
「のう。よくよく斬って貰いたいと見ゆるわ。久しぶりに篠崎流を存分用いるか」
「はッ。けっこうでござりまするが、うしろの槍はなんとした者共でござりましょうな」
「言うがまでもない。あの真中にいるのが、確かに昼間見かけた黒住団七じゃ。思うに、同藩のよしみじゃとか何とか申して、はき違うべからざる武士道をはき違えおる愚か者共じゃろうよ」
「笑止千万な! では、手前も久方ぶりに揚心流を存分用いて見とうござりますゆえ、お助勢お許し下されませ」
「ならぬ」
「なぜでござります」
「退屈男の名前が廃《すた》るわ。そちはこれにてゆるゆる見物致せ」
言うや、ひらり、体を浮かしたとみえましたが、およそ不敵無双です。槍、剣《つるぎ》、合わしたならば二十本にも余る白刄の林の中へ、恐るる色もなくぱッとおどりおりました。
しかも自若《じじゃく》としてそこに生えたるもののごとくおり立つと、腰の物を抜き合わそうともせず、あの凄艶《せいえん》
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