お願げえでごぜえます」
「なに、そちの身柄を予に匿まえとな!?[#「!?」は横一列]」
「へえい。どう人違いしやがったか、何の罪科《つみとが》もねえのに、御番所の木ッ葉役人共めが、この通りあっしを今追いかけ廻しておりやすんで、御願げえでごぜえやす。ほんのそこらの隅でよろしゅうごぜえますから、暫くの間御匿まい下せえまし」
「ほほう、町役人共が追いかけおると申すか。だが、匿まうとならばこの後の迷惑も考えずばなるまい、仔細はどんなことからじゃ」
「そ、そんな悠長な事を、今、この危急な場合に申しあげちゃいられませぬ。な、ほら、あの通りどたばたと、足音がきこえやすから、後生でごぜえます。御前のお袖の蔭へかくれさせて下せえまし」
「いや、匿まうにしたとて、そう急《せ》くには及ばぬ。無役ながらも千二百石を賜わる天下お直参のわが屋敷じゃ、踏ん[#ママ]込んで参るにしても、それ相当の筋道が要るによって、まだ大事ない。かいつまんで事の仔細を申せ」
「それが今も申し上げた通り、仔細もへちまもねえんですよ。御前の前《めえ》で素《す》のろけらしくなりやすが、ちっとばかり粋筋《いきすじ》な情婦《いろ》がごぜえやし
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