喰う米の虫よ喃《のう》。ほら、ではこの通り自由に致してつかわしたゆえ、なにもかもありていに申せ。事の起きたのはいつ頃じゃ」
「かれこれ四ツ頃でござりました、宵のうち急ぎの用がござりまして、出先からお帰りなされましたところへ、どこからか京弥どのに慌ただしいお使いのお文が参ったらしゅうござりました。それゆえ、取り急いですぐさまお出かけなさりますると、その折も手前が御門を預かっていたのでござりまするが、出かけるとすぐのように、じきあそこの門を出た往来先で、不意になにやら格闘をでも始めたような物騒がしい叫び声が上りましたゆえ、不審に存じまして見調べに参りましたら、七八人の黒い影が早駕籠らしいものを一挺取り囲みまして、逃げるように立去ったそのあとに、ほら――ごらん下さりませ。この脇差とこんな手紙が落ちていたのでござります。他人の親書を犯してはならぬと存じましたゆえ、中味は改めずにござりまするが、手紙の方の上書には京弥どのの宛名があり、これなる脇差がまた平生京弥どののお腰にしていらっしゃる品でござりますゆえ、それこれを思い合せまして、もしや何か身辺に変事でもが湧いたのではあるまいかと存じ、日頃京弥
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