して、駈けよるとざっくばらんに言いました。
「殿様殿様! いいところへおいでなせえました。早く来ておくんなさいよ」
と――、頭巾の中からいとも静かに落ちつき払った声がありました。
「うろたえて何ごとじゃ」
「だって、これをうろたえなきゃ、何をうろたえたらいいんですか! ま、あれを御覧なせえましよ」
「ほほう、あの者共も退屈とみえて、なかなか味なことをやりおるな」
「相変らず落ちついた事をおっしゃいますね。味なところなんざ通り越して、さっきからもうみんながじりじりしているんですよ。あんまりあの四人のでこぼこ共がしつこすぎますからね」
「喧嘩のもとは何じゃ」
「元も子もあるんじゃねえんですよ。あっしは初めからこの目で見てたんだから、よく知ってますがね、あの若衆の御主人様が、お微行《しのび》でどこかへお遊びに来ていらっしゃると見えましてね、そこへの御用の帰りにあそこの角迄やって来たら、あの四人連れがひょっこり面《つら》出しやがって、やにわと因縁つけやがるんですよ。それも粕《かす》みていな事を根に持ちやがってね、若衆は笑いも何もしねえのに、笑い方が気に喰わねえと、こうぬかしゃがるんですよ。おまけに因縁のつけように事を欠いて、あの若衆の顔が綺麗すぎるから癪に障ると、こんな事をぬかしゃがるんで、聞いてるものだって腹が立つな当り前じゃござんせんか」
「ほほう、なかなか洒落れた事を申しおるな。それで、わしに何をせよと申すのじゃ」
「知れたこっちゃござんせんか。あんまり可哀えそうだから、何とかしてあの若衆を救ってあげておくんなさいよ」
「迷惑な事になったものじゃな。どれどれ、では一見してつかわそう――」
一向に無感激な物腰で、ふところ手をやったままのっそり人垣の中へ這入ってゆくと、じろり中の様子を一|瞥《べつ》したようであったが、殆んどそれと同時です。にんめり微笑を見せると事もなげに言いました。
「折角じゃが、どうやらわしの助勢を待つ迄の事はなさそうじゃよ」
「なんでござんす! じゃ、殿様のお力でも、あの四人には敵《かな》わねえとおっしゃるんですかい」
「ではない、あの若者ひとりでも沢山すぎると申すのじゃ」
「冗談おっしゃいますなよ! 対手はあの通り強そうなのが四人も揃っているんだもの、どう見たって若衆に分があるたあ思えねえじゃござんせんか」
「それが大きな見当違いさ。ああしてぺ
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