か。お駒! それとも兄か!」
「…………」
「だれだ、この位牌の主は! いずれにしても、おまえの身寄りだろう! 身分もたしかに武士だろう! 伝六をあしらった今の手の内、昼間お白州で、この右門のつぶてをみごとにかわした身のこなし、ただのやまがら使いじゃあるめえ。強情を張っているおまえのつらだましいからしてが、たしかに武家育ち、槍《やり》ひと筋のにおいがするんだ。武士だろう! 親だろう! それとも兄か! 亭主か!」
 鋭くたたみ込んだのに、しかしお駒は気味わるく押し黙ったままでした。うっすらと、小バカにしたように笑いながら、ものうげにまた、ゆらり、ゆらりとむちを動かして、位牌の上のやまがらを招きよせました。
 動くその影にひかれて、ぴょんぴょんとおどりながら、やまがらが、ふた足み足歩いたかと思うと、せつな、意外なものが点々と畳の上に残りました。
 血です。血です。飛んできたその道筋に、ちいさく赤いもみじのようなやまがらの足跡が、濃く、薄く、だんだんとかすれて、二つ、三つ、四つと畳の上に残ったのです。
 同時でした。右門よりもお駒があっとおどろいて、われ知らず声をたてながら飛びかかると、うろ
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