ゃ。早くこれへ出ませい!」
せきたてた声に、運命を仕切ったお白州木戸が重くギイとあいて、乳懸縄《ちかけなわ》のお駒が小者四人にきびしく守られながら、よろめきよろめき現われました。
年はかっきり三十。六十日の牢《ろう》住まいにあっては、奥山で鳴らした評判自慢のその容色もささえることができなかったとみえて、色香はしぼり取られたようにあせ衰え、顔はむくみ、血のいろは黒く青み、髪は赤くみだれてちぢれ、光るものはただ両眼ばかりでした。
「だいぶやつれたな。慈悲をかけてつかわすぞ。ひざをくずしてもよい。楽にいたせ」
しかし、楽にすわろうにも、今はもうその気力さえないとみえて、精根もなくぐったりとうなだれたところへ、証拠の品のドスがひとふり、そのとき着ていたという長じゅばんが一枚、あとから塩づけになった音蔵のむくろが、長い棺に横たわって、しずしずと運ばれました。
ものものしさ、ぎょうぎょうしさ、総立ち会い総吟味の顔は並んでいるが、六十日間責めつづけて自白しないものを、証拠の合わないものをいまさら責めてみたとて、自白するはずもなければ、ないものをまた罪に落としたくも落としようがないのです。吟味
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