吸いこむように右門の姿をかくしました。
3
半刻、四半刻と、やがて日のいろが薄れて、ほの白い春の宵が、しっとりとたれ落ちました。精いっぱいの聞き込みを集めているとみえて、わかれていった伝六がなかなか帰らないのです。――寝て待ち、起きて待ち、あごと遊んで待っているうちに、人通りもおおかた遠のいた表の町から、ばたばたと景気のいい足音が、下の店さきへ駆けこみました。
「伝六か!」
「しかり!」
「景気がいいな。みやげはどうだ。その足音じゃたんまりとありそうだが、どうだ、わかったか」
「…………」
しかし、伝六は駆けあがってきた元気とはうって変わって、しょんぼりとたたずみながら、しきりとまゆをぬらしているのです。
「だめなのかい」
「いいえ、だめとはっきり決まったわけじゃねえんだ。音蔵のほうで五軒、お駒のほうで五軒、締めて十軒探ったんですがね。そのうちで、たぶんふたりだろうといったのが――」
「何軒だ」
「締めて五軒あるんですよ。いいや、ひとりかもしれねえといったのが、やっぱり五軒あるんだ。くたぶれもうけさ。いくら探っても、やっぱり、ひとりかふたりか、雲が深くなるばかりで正体
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