ご返事なら、たってききますまいよ。お名はなんていいますえ」
「知らねえや!」
「なるほど、名まえも知らねえ屋どのとおっしゃるか。よしよし、これだけわかりゃたくさんだ。伝六、河岸《かし》を変えようぜ。忙しいんだから、鳴らずについてきなよ」
しかし、鳴るなといったとて、これが鳴らずにいられるわけのものではない。たちまち、その口がとがりました。
「バカにしてらあ。あんまりむだをするもんじゃねえですよ」
「むだに見えるか」
「むだじゃござんせんか。あんな月代《さかやき》野郎にけんつくをかまされて、すごすごと引き揚げるくれえなら、わざわざ寄り道するがまでのことはねえんだ。お駒を煎《せん》じ直すなら煎じ直すように、早く締めあげりゃいいんですよ」
「そのお駒を締めあげるために、むだ石を打っているじゃねえか。右門流のむだ石捨て石は、十手さき二十手さきへいって生きてくるんだ。文句をいう暇があったら、はええところお駒のねぐらでもかぎつけな」
捜していったその伝六が、はてな、というように首をかしげました。――音蔵の住まいからはわずかに三町、六十日間も牢《ろう》につながれておったら、さぞやるす宅も荒れすさ
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